シリアの女の子

仕事でシリア人女性のパーティーに顔を出す機会があった。

シリア人の外にも他のアラブ語圏の国の女性が子連れで集まり、フィンランドに移住してから初めて女性達だけで会を催す運びになったそうだ。テーブルにはお手製のケーキやバクラバ(中東のペイストリー)などが美味しそうに並べてあった。

ほとんど初めて会った人々だったのだが、皆人懐こく、嬉しそうに歓迎してくれた。子供たちも興味深げに私に話しかけてきた。この集まりの中でアラブ系とフィン人以外は異色に映ったのだろう。12歳の聡明そうな女の子がこちらに寄ってきた。

 

「ねえ、あなた日本人なの?」

「うん、そうだよ。」

「わあ、私、日本大好きなの!
 アニメや日本食、それに袖の長い素敵な服も!」

「え、袖の長い服? 着物のこと?」

「キモノって何?」

 

携帯で着物が写ってる写真を見せると。彼女は目を輝かせて言った。

 

「そう、それそれ! ねえ、日本の歴史について教えて!」

 

しばらく、日本の天皇の話や、古い建物の話なんかで盛り上がった後、彼女はふいに聞いた。

 

「あなたはいくつ?」

(と、年ですか?😥)

「うーん、あなたよりだいぶ年上。」

「20歳くらい?」

「あはは、ありがとう。もっとだいぶ上だよ。」

「ええ!? 24歳?」

「いや~、もっとだいぶ年上。多分あなたのお母さんよりも。」

「お母さん、死んじゃったから、何歳かわからない。」

「…。お母さん、会ったことあるの?」

「うん。シリアに住んでた時。」

「いつフィンランド来たの?」

「4年前。お父さんと。」

 

そうだった。2015年にフィンランドに難民で来たシリアの人たちは、戦争難民だった。

結局彼女に年齢を言わされたのだけど、ずっと24歳にしか見えないと訝しがっていた。

なんだろう、12歳の子の24歳基準って。

 

4年しか住んでいないのに、とても流暢にフィン語を話す彼女はこう続けた。

 

フィンランド人は難しいね。」

「色んな人がいるけどね。でも大体はいい人だと思うよ。」

「そうかな。半分は悪い人で、半分はいい人だよ。
 だって私が滑り台で遊んでる時に、
 フィンランド人の男の子がわざと突飛ばしたりしてくるし。」

「そうなんだ。それはひどいね。
 でも本当はみんないい人なんだと思うよ。
 心の目が閉じてるから、ちゃんと見えなくて優しくできないだけで。」

 

彼女のように戦争から逃げてきた難民の子が今ヨーロッパにはたくさんいる。フィンランドに出された2015年の難民申請者は3万人を超えた

それでもフィンランドは少ない方だ。EU全体ではその年130万人以上の難民が殺到したそうだ。
ec.europa.eu

 

フィンランドは今年も2年連続で。戦争から逃れて、世界一幸せな国に幸せを求めてきた人達。中東の人々、特にイスラム系に対するこの国の差別は顕著で、道を歩いてるところ、車からビール瓶を投げつけられたり、知らない大人に子供が唾を吐きかけられたり、突飛ばされたりするなど目に余るものがある。

worldhappiness.report

 

平気で差別的な発言をする大人たちの影響は、それを見ている子供たちにも及ぶ。大人が家で話している言葉遣いで、子供は学校でも同じ差別発言をする。大人がそれをやめない限り、子供は悪いとも思わず相手かまわず、言葉や態度で傷つける。時には暴力にまで発展する。

12歳の女の子は、多分戦争で母親を亡くしたのだろう。彼女がこれからこの国で幸せを見つけられるように願わずにはいられない。

差別になんて負けないで、幸せをつかみ取ってほしい。

 

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www.aljazeera.com

 

Vice.com Topic: Syria

 

 

フィンランド

フィンランドに来る日本人からよく聞く言葉がある。

フィンランドは男女平等だし差別もないんでしょ?」
フィンランドにはイジメもブラック企業もないんでしょ?」

なぜか日本人は北欧にすごく良いイメージを持っている。

福祉国家だし、教育水準も高いし、ちなみに物価も高いし、背も高くて、女性は強い。

それはそうなんだけど...。実際20年以上暮らしている者としては、とても違和感を感じざるをえない。

せっかく持ってくれているそんな良いイメージを壊すつもりはないけど、やっぱり他の実態も知ってもらいたい。

 

上記の様な質問をしてきた人たちに、最近はネオナチの活動が活発とか、政治は極右派が政権握ってるとか、メディアも人種差別を煽り気味とか、#Metoo はディスられまくってるし、フィン人もネトウヨが多いとか言うと本当に驚かれる。ブラック企業もあるし、人身売買やDVの被害者もいるし、アル中も多い。ちなみにフィンランドは女性の暴行被害者率がEU諸国で2番目に多い(欧州基本権機関調べ)


だから本当の男女平等は今も実現されていない。

なんだかダークなことばかり並べてしまったけれど、もちろんいいところもたくさんあるし、私はこの国が大好きだ。だから今も住み続けてる。

フィンランド人は現実を直視し真摯に受け入れ、それを改善する努力も惜しまない。そこは見習うところだと思う。


日本では国単位で取り組まないといけない問題(少子化問題や雇用問題など)も先延ばしにして、とりあえず今何となくやり過ごせればいいと言う風になりがちだと思う。外から見ていると少なくともその様に見える。個人レベルで変な自己責任論はすぐ出てくるのに、大きな事も自分が責任を持って変えていこうと言う意識が薄くて、なんだか人任せな感じがする。

フィンランドには個人が大きな事を変えるために参加するツールやシステムがある程度発達してる。それは自分で責任を持ってこの国を良くしていこうとした先人たちが残してくれたものだ。

これ日本にもあったらいいのにな。そしたらもっと日本も変わっていけるかも。もっとみんなで変えよう、変えられるって思ってもらえるかも。

 

そう思った数々のアイデアや自分の経験を、ここで紹介したいと思う。 

例えば2015年に国会で可決された同性婚の合法化は、カンサライスアロイテ(いわゆる市民イニシアチブ)で15万人以上の署名を集めた議案である。

2012年から始まったこの制度では、半年の期間中5万人の署名を集めた議案は、国会で審議され、可決されれば法律を変えることが可能だ。インターネットで気軽に署名できる。

現在署名リストにある案件は「鉤十字の旗やその他のナチスの象徴の使用を法律で禁止する」「性犯罪を犯した外国人の在住許可停止と強制送還」など時事を反映しているものとや「フィンランドで製造される製品へのパームオイルの使用禁止」など環境問題に関するものなど様々である。

 

そんなフィンランドでも、肝心の選挙では低い投票率が悩みの種になっている。80年代に80パーセントだった投票率が現在では58パーセントまでに落ちこんでしまった。

yle.fi

 

最近ではこんな動画を作って若者を啓発したことも。日本のアニメ風で笑える。

 

動画のセリフで「民主主義が危ない!」と叫ぶシーン(0:39頃)がある。そう、投票率が低くなると民主主義が守られないのだ。このメッセージを日本でも深刻に受け取ってほしい。

さすがのフィンランドでも選挙の電子投票化を実現出来ていないけど、近い将来それも可能にする方向で話は進んでいるらしい。そうすることで、体が不自由で選挙会場まで行けない人や、北のラップランド地方など、人がまばらにしか住んでいない地域でも簡単に選挙に参加することができる様になれば、もっと平等な社会の実現に近づけるだろうということだそうだ。

 

平等と市民参加。

これはやっぱりこの国のキーワードらしい。

市民イニシアチブや選挙などのオフィシャルな方法の他にも、政策の改革に参加する方法がある。それはNGO(非政府組織)を立ち上げたり、活動に参加することだ。

この国では3人集まれば誰でもNGOを作ることができ、登録も簡単にできる。現在13万5千団体(活動中は7万団体)。活動内容は趣味のもの、スポーツ、宗教、労働組合、福祉、環境保護など多岐にわたる。中でも労働組合と福祉系の団体(障がい者や子供、女性団体など)は個人に代わって団体が権利を守るための活動をする。

例えば、国の政策を作るときに、政府や市の組織にメンバーが代表として出席し、専門家として意見を言ったり声明文を提出したりできる。それが実際に国や市の政策に反映するのだ。フィンランドの大きなNGO活動は、職業として成り立っているので(この件は後日詳しく書こうと思う)、専門家がお給料を毎月もらってフルタイムで活動できる環境がある。これは日本ではあり得ない状況らしいので、話をするとよく誤解される。

 

こんな風に、日本より身近なところに政治参加の道が開かれているので、なんだかちっぽけな自分にも、ちょっと頑張れば世の中が変えられる様な気がしてしまうのかもれない。